歯の豆知識

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この時期だからこそ、特に気を付けたい『酸蝕歯(さんしょくし)』について。

こんにちは。長野フォレスト歯科の添野です。

今年もあと少しで、半分が過ぎようとしていますね。ビックリです!

蒸し暑い日が続いていますので、体調には十分お気を付けください。

皆さんは、炭酸飲料やオレンジ、梅酒はお好きですか?

特に、暖かくなると炭酸飲料が飲みたくなりますよね。シュワシュワとした爽快感が心地良く、ついつい飲み過ぎてしまいますよね。
一方で、子供の頃に「コーラを飲むと歯が溶けるよ!」と言われ、コーラは歯に悪いというイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか?

「コーラで歯が溶ける」といわれる主な理由は、コーラに含まれる酸が歯のエナメル質を溶かす性質を持っているということが挙げられますが、実は、普段の食事でもお口の中は酸性に傾き、歯は溶けてしまいます。

実は、私たちが普段口にしている飲食物の中でも特に酸性の強いものであり、歯のエナメル質が溶ける「酸蝕歯」のリスクが高まる可能性があるのです。しかし、このような酸性の強いものを口にしたからといって、全ての人が酸蝕歯になるということではありません。

一体なぜ特定の人にのみ起こるのか、今回は酸蝕歯の症状や予防法などについてお話します。

酸が原因で歯の表面のエナメル質が酸が溶けてしまった歯を「酸蝕歯」と言いますが、約4人に1人が酸蝕歯であるというデータもあり、近年では歯周病やむし歯に次ぐ「第三の歯科疾患」として問題になっています。
30年位前までは、メッキ工場やガラス工場で働く工場の人たちが、酸性ガスを吸ってしまうことで酸蝕歯が発症することがあるといわれていました。しかし現在では、作業環境の改善により、この酸蝕歯は、大幅に減少し現在では、一般の人達の飲み物や食べ物による酸蝕歯が急増しています。

□酸蝕歯とは?

酸蝕歯とは、例えば炭酸飲料の常飲や、持病による胃液の逆流などにより、酸性の強いものが頻繁に歯に直接触れることで、表面(エナメル質)が溶けてしまった歯のことを言います。患部が部分的に変色するむし歯と違い、進行によって歯が全体的に透けて見えることが特徴です。

通常、お口の中はpH7程度の中性に保たれていますが、エナメル質は、pHが5.5以下で溶けてしまいます。
食事をすると、飲食物に含まれる酸や、糖質をエサにしてむし歯菌(ミュータンス菌)が作り出す酸によってお口の中が酸性に傾いてしまいますので、この状態が長く続くとエナメル質が溶け出してしまうのです(脱灰)。

しかし、通常は食後に分泌される唾液によってお口の中に残った酸が中和されてpHは元の中性へと戻るため(再石灰化)、脱灰されたエナメル質も自然に補修されているのですが、酸性の強い飲食物を摂取したり、だらだらと間食したりすると、この再石灰化の力がうまく働かずに酸触歯のリスクが高まってしまいます。

エナメル質が溶けると、内面にある象牙質がむき出しとなってしまうためむし歯にもなりやすく、熱い物や冷たい物がしみるといった知覚過敏の症状が出ることもあります。
酸蝕歯は初期段階では症状が出ないことも多いため、ご自身では気付いていない方も多いですが、一度、酸によって溶かされたエナメル質は、自然に元に戻ることはありません。
放っておくと、歯が黄ばんだり、表面がデコボコになるなど、審美的にも機能的にも問題が生じてしまいますので早めの対処が重要です。

□症状

酸蝕歯は4人に1人にあると言われています。老若男女を問わず起きる症状です。

酸蝕歯の主な症状です。

自分の歯を見て、一度チェックしてみましょう!

・歯が薄くなり、前歯の先端や角が丸みを帯びる

・冷たいものや温かいものがしみる(知覚過敏)

・熱い飲み物や冷たい飲み物がしみる

・エナメル質が薄くなることで象牙質が透け、歯が黄ばんで見える

・被せ物や詰め物が外れやすくなる

・詰め物と歯の間に段差や隙間ができてくる

・詰め物が変色したり、詰め物との境が茶色や黒くなったりする

・歯の先端が薄く透けて見えたり、欠けたりする

・歯の咬み合わせの山の部分が凹んでいる、黄色い穴が開いたようになる

・いくら歯ブラシを丁寧にやってもむし歯ができる  など…

※あてはまる数が多い場合は酸触歯の可能性があります。

痛みなどの自覚症状が乏しいことから、重度になるまで気がつかなかったというケースも珍しくありません。

日常的に摂取している食事や飲み物、ワインや果物、健康酢には意外と多くの酸が含まれています。健康に良いとされる酸を含む飲食物を摂り続けることによって起こる生活習慣病の一つと考えられます。
酸が歯に触れると、エナメル質は一時的にやわらかくなって溶け出します。そのやわらかくなった状態のときに強く歯ブラシをしたり硬い物を食べたりするとエナメル質が磨り減り、徐々にエナメル質が薄くなっていきます。さらに進んでくると、歯の中の象牙質が露出し、刺激物などによってしみる知覚過敏の症状が出てきます。

唾液には口の中の酸を中和して自然なバランスを取り戻し、エナメル質を硬化させる働きが有ります。しかし、その修復のスピードは遅いため、酸性度の高いものを頻繁にとっていると、酸蝕歯は進行します。

□酸蝕歯になりやすい人

・炭酸飲料やスポーツドリンクを水代わりによく飲む

・梅干しや酢漬けが好き

・レモンや柑橘類を絞って、水に入れて飲む

・マヨネーズ、ドレッシングなどをいっぱいかける

・柑橘類などを良く食べる

・健康のために黒酢を習慣的に飲む

・クエン酸の入った睡眠サプリ、美容サプリ、筋トレ用サプリを飲む

・夕食はお腹いっぱいになるまで食べる

・ワイン、ビール、日本酒、焼酎などをほとんど毎日、特に寝る前に飲む

・つわりや摂食障害、逆流性食道炎などで嘔吐を繰り返す

・よく胸やけをする方

・夕食が遅くなる、夜食や夕食後にお酒や水以外の飲み物を飲む方  など…

体に良いといわれている黒酢、梅、フルーツ、野菜ジュース、クエン酸、美容に良いといわれるビタミンC、スポーツ中や熱中症予防に飲むスポーツドリンク、炭酸飲料、ワイン、ビールなどのお酒などは歯を溶かすのに十分強い酸性です。実は私たちが美味しいと感じる食べ物飲み物はほとんど酸性なのです。中性は味が無く、アルカリ性は苦いのです。さらに、最も強い酸は私たちの胃から出る胃酸です。胃酸は普通口の中には出てこないのですが、逆流性食道炎のある方、食べ過ぎた時、飲み過ぎた時などに、ゲップとともに口の中に出てきます。ゲップをしなくても横になると食道下部括約筋が緩み胃酸が出てくる場合があります。お酒の飲み過ぎや車酔いなどによる一時的な嘔吐では歯の酸蝕症に至ることはありません。

摂食障害で過食嘔吐や反芻、つわりでも胃酸は口の中にでます。摂食障害の克服は難しく、長期間に及ぶと歯が著しく溶けた状態になります。そのために治ってからの対応よりも早期の予防と対策が重要です。

他にも市販の歯磨き粉が強い酸性を示す製品、寝る前に飲んでいたハーブティー、煎じて飲む漢方薬にも強い酸性を示すものがあります。睡眠サプリと称し、睡眠前に飲むと良く眠れるという顆粒タイプのサプリにクエン酸が入っているものがあります。睡眠中は唾液がほとんど出ないために、寝る前に飲むことは歯に良いとは言えません。

 

□酸触歯の原因

酸触歯の原因となる酸は飲食物に含まれている酸だけではありません。

逆流性食道炎や嘔吐などで逆流した胃酸や胆汁によって歯が溶かされる場合もあります。

酸性のイメージの強い炭酸飲料のほか、乳酸菌飲料や野菜ジュース、赤ワインなども酸性の強い飲み物として挙げられます。
また、身体に良いイメージのある黒酢などのお酢系のドリンクや栄養ドリンク、さらにはクエン酸やビタミンCを含んだサプリメントなども酸触歯の原因になりますので注意が必要です。

酸触歯は「脱灰⇔再石灰化」のバランスが崩れることによって起こりますので、頻繁な間食やだらだら食べ、お酒を飲んで歯磨きをせずに寝てしまう習慣がある方は特に注意しましょう。
酸性の強い飲食物を摂取した後は、お茶や水で口をすすぐなどして酸が口の中に長時間残らないようにすることで酸触歯のリスクを減らすことが出来ます。

□酸蝕歯にならないための対処法

①胃液が歯に接した場合には歯をゆすぐ

胃液の酸性度はとても強く、pH値1~1.5もあります。
そのため、逆流性食道炎や、摂食障害による過食嘔吐がある方、アルコールの過剰摂取や妊娠中のつわりにより嘔吐を繰り返す場合など、胃液によって歯が溶けてしまうことがあります。

逆流性食道炎や嘔吐を伴う摂食障害では、胃液が高頻度で歯に作用し、酸蝕歯になるリスクが非常に高くなります。

胃液が歯に触れた後はなるべくすぐに口をゆすぎ、少しでも酸性の状態を中和させることが有効です。

②炭酸飲料・お酢系飲料をダラダラ飲みしない

酸性のイメージの強い炭酸飲料のほか、乳酸菌飲料や野菜ジュース、赤ワインなども酸性の強い飲み物として挙げられます。
また、身体に良いイメージのある黒酢などのお酢系のドリンクや栄養ドリンク、さらにはクエン酸やビタミンCを含んだサプリメントなども酸触歯の原因になりますので注意が必要です。

酸蝕歯は「何を飲食しているか」よりも、「どうやって飲食しているか」が重要です。炭酸飲料やお酢系飲料も、どのようにして飲むかがポイントになります。

酸性の強い飲料はダラダラと飲み続けていると、口腔内が酸性に傾いたままになり、歯を修復するための再石灰化が不足してしまいます。

そのため、炭酸飲料やお酢系の飲料はダラダラ飲みせず、できるだけまとまった時間に取ることが大切です。

酸触歯は「脱灰⇔再石灰化」のバランスが崩れることによって起こりますので、頻繁な間食やだらだら食べ、お酒を飲んで歯磨きをせずに寝てしまう習慣がある方は特に注意しましょう。
酸性の強い飲食物を摂取した後は、お茶や水で口をすすぐなどして酸が口の中に長時間残らないようにすることで酸触歯のリスクを減らすことができます。

③寝る前に酸性のものを飲まない

無糖であっても、例えばフルーツティーやワイン、ビールなどは口の中が酸性へ傾きます。

そして、就寝中は唾液の分泌量が極端に少なくなるため、これが習慣になると酸蝕歯のリスクは向上します。

寝る前はお水やお茶など、アルカリ性に近いものを選びましょう。

④重度の場合には食後すぐの歯磨きを控える

患者さんからよく「食後すぐの歯磨きは良くないと聞いたんですけど、本当ですか?」という質問をいただきます。

事実、食後30分は歯磨きしない方が良いという説は色々なメディアなどで取り上げられていますし、考え方としては間違いではないのですが、場合によっては食後すぐに歯磨きをした方が良い場合もあります。
歯の表面はエナメル質で覆われていますが、食いしばり等の習慣により、エナメル質が削られて象牙質が露出しまうことがあります。

象牙質は酸に弱いため、酸性の強い飲食物を摂取した後すぐに歯を磨くと象牙質が削れてしまう可能性があります。

そのため食後すぐに歯磨きをするのではなく、30分程待ってから、お口の中が酸性から中性になって歯が本来の硬さになってから磨いた方が良いというものです。
つまり、「歯のエナメル質が削られて象牙質が露出している状態」で「酸性の強い飲食物を摂取した」場合には、食後すぐの歯磨きを控えた方が良いというもので、エナメル質がきちんと機能している状態の方には当てはまらない内容となっています。
エナメル質が機能している場合にはむしろ、食後すぐ歯を磨くことでお口の中の汚れを落とし、むし歯菌や歯周病菌が繁殖しにくい環境をつくることの方が重要で、食後に時間を空けずに歯磨きすることが推奨されています。

⑤柔らかめの歯ブラシと適切な圧でセルフケアを行う

歯や歯肉を痛めない適切な歯磨き圧は、約100~200gと言われています。

数値で見ると分かりにくいかもしれませんが、これは歯にブラシを当てたときに毛先が広がらない程度です。

これ以上の圧を加えた強すぎる歯磨きや硬い歯ブラシは、すり減ってしまった歯にとってとても危険です。

まずは歯科医院で専門的な指導を受け、自分に合った歯ブラシや歯磨きの方法を取り入れましょう。

⑥歯質強化効果のある歯磨き粉を使用する

歯のエナメル質を強化するフッ素配合の歯磨き剤を使いましょう。最近では特に酸蝕歯のケアに特化した歯磨き剤も売られています。

⑦唾液の分泌量を増やす

唾液は、酸性の状態を和らげる中和作用という働きを持っています。 しかし、唾液が少ないと口内を洗い流すことが十分にできないので、酸の濃度が高くなったままになってしまいます。

そして必然的に酸性の時間が長くなり、酸蝕歯やむし歯のリスクが上昇してしまいます。

唾液を増やす比較的簡単な方法はガムを噛むことです。 ガムを噛むと唾液が増え、口の中を自然なpHバランスに戻すことができます。また、唾液はエナメル質を修復し再石灰化を促進します。しかし、このガムに砂糖が入っていると全く意味がありません。そのため、食後には酸を産生しないキシリトール100%のガムを噛み、唾液の分泌を促進させることをおすすめします。

以上のことより酸触歯の症状が気になる方は、酸性の強い飲食物の摂取した後は、お水やお茶でお口をすすいでから毛先の柔らかい歯ブラシを使用して優しく歯磨きを行うことに気を付けてブラッシングするようにしましょう。

□酸触歯の治療法

一度溶けてしまった歯は、皮膚や骨のように再生することはありません。

したがって歯科医院では、酸蝕歯の進行を止めること、症状を緩和させるため以下の処置を行うことが主になります。

①初期の場合:フッ素塗布で歯をバリアする

酸触歯の症状が初期の場合、フッ素塗布により歯質を強化することでエナメル質を丈夫にし、酸に溶けにくくします。
また、フッ素には歯質強化の他、歯表面のエナメル質修復(再石灰化)、虫歯菌発育の抑制に有効といった効果もありますので、むし歯予防としても定期的に行うことをおすすめします。

②中期以降の場合:詰め物や被せ物をする

象牙質の露出が進むことで、強い知覚過敏の症状や咬合痛(咬むことで生じる痛み)が現れることも少なくありません。

歯の表面の凹凸や、酸で溶けて隙間ができてしまった部分は詰め物や被せ物によって修復します。
奥歯の凹凸などはコンポジットレジン(保険適用)で対応することがほとんどですが、審美性が求められる前歯の場合、セラミック(自由診療)などの素材を選択される方も多いです。
歯の詰め物や被せ物で使用される材料は種類が様々あり、それぞれメリットデメリットがあるため、ご自身に合った材料を選ぶことも歯を長持ちさせるポイントとなります。

③食生活指導

歯科医院で上記のような治療をしたとしても、原因である飲食の習慣を改善しなければ治療は困難です。

酸蝕歯の原因は千差万別であるため、個々にあった専門家のアドバイスが必要となります。

根本的な治療を行うためにも、指導内容を考慮し、悪習慣に気を付けることが重要です。

生活の習慣を一部分だけ見直すだけでも予防に繋がります。日ごろから意識してみましょう。

□酸蝕から歯を守るには

酸蝕歯を予防するには、以下のことに気を付けるようにしましょう。
また、歯科医院で定期的に検診をおこない、歯の表面に異常がないかのチェックを受けることも大切です。

・酸の強い飲食物を口にする回数を減らす

・酸の強いものを食べたら、水やお茶を飲んだりうがいをしたりして洗い流す

・酸の強い飲み物を飲む際にはストローを使う

・食後にうがいを行い、口の中の環境を酸性から中性に戻す

・だらだらと長い時間をかけた飲食や間食をなるべくしない

・よく噛んで唾液を出す

・キシリトール100%のガムをかむ

・フッ素濃度が高い歯磨き剤を使用する

・酸蝕歯の症状が気になる方は、毛先の柔らかい歯ブラシを使用して優しくハミガキを行う

・ドライマウスや睡眠時無呼吸症候群などの症状がある場合は早めに対策する  など…

□酸蝕歯とむし歯の違い

むし歯ができるのは口内の細菌が原因です。砂糖やでんぷん質を含んだ食品をとると、細菌がこれらを酸に変え、歯のエナメル質を溶かします。時間を経てエナメル質は壊れ、むし歯になります。
それに対して、「酸蝕歯」は食べ物に含まれている酸が歯のエナメル質へ直接的に作用します。むし歯は全ての歯に同時に影響しませんが、「酸蝕歯」は進行性のため、放置しておくと、前歯は欠けたような状態となり、臼歯は咬み合わせ面にへこみを生じさせます。酸にさらされた全ての歯に起こります。

歯は、年齢を重ねるほど傷み、酸蝕の影響を受けやすくなっています。

酸蝕歯が怖いからと言って、酸性の食品を食べないようにするのは正しい予防法ではありません。第一、酸性のものを食べないなんて無理ですよね。食べないようにするのではなく、食べる頻度や食べ方を工夫すれば良いのです。

酸蝕歯は特に炭酸飲料やお酢系飲料を好む方、疾患により胃酸が頻繁に口腔内に触れてしまう方などに多い、酸に歯が侵食されてしまう疾患です。そして、酸蝕歯は、むし歯や歯周病に続く、歯を失う原因第三の歯の疾患で現代の生活習慣病です。

セルフチェックで当てはまる数が多いほど酸蝕歯の可能性が高くなります。
歯の健康を守るためにも、早めの治療で悪化を防ぐことが大切です。
歯科医院で治療は行いますが、酸によって溶けてしまった歯が元に戻るわけではありません。

酸蝕歯において重要なのは、歯科医院で早期発見・早期治療を受けることで、歯の欠損につながる重症化を防ぐことができるという点です。

歯の先が透けているように見えたり、急激に歯が黄色くなったと感じたり、酸蝕歯の特徴に当てはまるという方は、一度歯科医院で相談してみることをおすすめします。

また定期的に歯科医院を受診し、歯の健康状態をチェックしてもらいましょう。
もしかして!?と思った方は、お気軽にご相談ください。

 

編集者 医療法人フォレスト 長野フォレスト歯科 理事長 藤森 林