歯の豆知識

knowledge

口の中は「ウイルス感染」の入口って本当? 実はお口の中と風邪は強く関係しています。

こんにちは。長野フォレスト歯科の添野です。

新しい年を迎え、寒さが続いておりますが、お変わりありませんでしょうか?

本年もよろしくお願いいたします。

現在、様々なウイルスによる風邪症状が流行っていますね…

昨年からインフルエンザ患者数が過去最多を更新、他県では警報基準を超えるなど猛威を振るっています。

今後はさらに罹患者数が増加するとも言われています。

湿度が下がり空気の乾燥によって口腔内や喉、鼻の粘膜が乾燥することで、様々なウイルスや細菌など外からの侵入を防御する機能が弱まってしまうのです。

風邪を予防するためには、うがい・手洗いはもちろんですが、適度な睡眠・適度な運動・適度な食事が基本であることは皆さんもよくご存じかと思います。

しかし、もうひとつ大事な予防策があるのをご存知でしょうか?

実は「起床時の歯磨き、うがい」が有効であると言われています。

正しい歯磨きが風邪やインフルエンザなどの予防につながるという研究結果もあります。また歯科医師会のHPでも、科学雑誌に掲載された論文で、口腔は新型コロナウイルスの増殖部位である可能性を紹介しており、歯科医師会の研究でもコロナウイルスの生体内侵入に必要な分子が、口の中の粘膜や唾液、舌苔(舌の上の白い苔状のもの)にあることを発見しています。

すなわち「口の中がコロナウイルスの感染の入り口になる」ということを示しており、お口のケアがとても重要視されています。

そこで今回は、ウイルス対策と口腔ケアの関係について紹介したいと思います。

皆さんが日々の丁寧な口腔ケアを心がけることで、ウイルス感染のリスクを少しでも防ぐことができればと思います。

◆口腔常在菌と風邪の関係

日頃生活しているとあまり意識することはないかもしれませんが、実は口腔内には数えきれないほどの細菌がいます。「口腔常在菌」と呼ばれるもので、その種類は700にも及ぶと言われています。これだけの種類の細菌が全て病気の原因になるわけではなく、有害なウイルスや病原菌が体内に侵入するのを防ぐものや、体に害のない細菌も存在します。

風邪やインフルエンザなどのウイルスは鼻や喉などの粘膜から体の内部に侵入します。そしてウイルスは、目・喉・鼻・口の中などの粘膜にある「ACE2」という受容体を介して侵入することで、増幅するといわれています。

空気中などに存在しているウイルスはたんぱく質の膜に覆われているため、その膜から出てこられないと悪さはできません。

驚くことに口腔内には大量の細菌が生息しています。口腔内には約30億~6000億もの細菌が存在するとも言われますが、これらの細菌はプロテアーゼというたんぱく質を分解する酵素を出す特性があります。

そしてプロテアーゼは風邪やインフルエンザウイルスを粘膜に侵入しやすくする働きがあります。
口腔内を不潔な状態にしておく→プロテアーゼの量が増える→風邪・インフルエンザに感染しやすくなる、という悪循環になってしまいます。
口腔内を不潔な状態にしておくと細菌が増殖します。そして、歯垢(プラーク)に含まれる細菌が作り出す酵素には風邪やインフルエンザなどの菌やウィルスの増殖を助ける働きがあるようです。

そのために歯垢をしっかり落とし、口腔内をキレイに保つことで菌やウィルスの増殖を防ぎ、唾液の抗菌作用がよく働く環境を整えることで風邪やインフルエンザの予防ができるそうです。

◆歯周病菌は「ウイルス感染を促す酵素」を排出

お口の中の細菌の中でも「歯周病菌」はとても厄介で、ウイルスが身体に侵入するのを助ける働きをもっています。

これは歯周病菌が、ウイルス感染から身体を保護している粘液の膜(糖タンパク質)を溶かしてしまう酵素「プロテアーゼ」を排出することによるものです。つまり歯周病菌が増殖すると、ウイルス感染リスクが高くなってしまうのです。

◆なぜ口腔ケアが感染症対策に有効なのか

口腔内には数多くの細菌が存在します。口は外部からの細菌やウイルスの入り口となります。口には、唾液による自浄作用や抗菌作用が備わっており、お口の汚れや細菌を洗い流したり、細菌などの感染を防ぎ、お口を守っていますが、口の中が不衛生になり、細菌が増えてしまうとウイルスの体内への侵入を助けてしまいます。

そのため、口腔内の清潔さは感染症対策の第一歩と言えるでしょう。特に歯周病の方は「治療が感染対策」へ繋がります。

口腔内の健康は、全身の健康と密接に関連しています。近年、口腔ケアが感染予防において重要な役割を果たすことが明らかになってきました。特に、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックを通じて、歯磨きが感染予防にどのように寄与するかについての関心が高まっています。

ウイルス対策のためには、丁寧な歯磨きをすることはとても大切です。ですが歯磨きだけのお口のケアでは汚れを取り切ることは難しく、自分でも気付かないうちに歯石・歯垢が溜まってしまっていることもあります。

これらの磨き残しは歯周病の原因となるため、ウイルス感染リスクを高めてしまいます。そのため歯周病に進行してしまわないように、歯科医院でのクリーニングを受けて予防しておきましょう。

また、すでに歯周病だという方は歯科医院での歯周病治療を受けることが、ウイルス対策につながります。セルフケアとともに、歯科医院での歯周病治療やクリーニングも継続して行いましょう。

◆ウイルス感染予防には唾液にも関係がある

ウイルス感染予防には、唾液の存在も大きな影響を与えています。

・唾液中の「抗体」がウイルス感染をブロック

唾液の中には、「IgA」という抗体が存在しており、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどのウイルスをブロックして、感染を予防しています。

・口の中が清潔でないと「抗体」は正常に働かない

ただし、「IgA抗体」が効果的に働くためには、お口の中が清潔であることが大切です。もし口の中が不潔で細菌が多い状態であれば、抗体が正常に働かないため、ウイルス感染のリスクが高まってしまいます。

◆歯磨き粉にもウイルス予防の可能性があることが明らかに

最近の研究では、歯磨き粉や洗口剤に含まれる成分が、新型コロナウイルスの侵入をブロックする可能性を明らかにしています。(※参照:歯科医師会HP

歯磨き粉や洗口剤に含まれることの多い、

ラウリル硫酸ナトリウム

テトラデセンスルホン酸ナトリウム

ラウロイルメチルタウリン酸ナトリウム

などの成分が、ウイルス対策に効果が期待できると紹介されています。

◆予防に効果的な歯磨きのポイント

できるだけお口の中を清潔に保つことは風邪やインフルエンザの予防にも繋がります。ここで気をつけたいのは、「口腔ケア=歯だけを磨くこと」ではないことです。お口の中で歯が占める表面積は25%に過ぎません。舌や喉などの粘膜が残りの75%を占めているため、歯を磨いただけでは十分に口腔ケアができているとは言えないのです。風邪予防という観点でも、次のようなことに気をつけましょう。

①夜は特に念入りに
(寝ている間は唾液量が減り、日中に比べて細菌が繁殖しやすい状態になるため)
②朝は起きてすぐ磨く
(寝ている間はお口の中に細菌が繁殖しているので、そのまま朝に飲食をして、細菌やウイルスを体内に取り込ものを防ぐ)
③舌を磨く、うがいも行う
(細菌は歯だけではなく、舌の上に多く生息しているため)

一次予防としてうがい・手洗いは知られていても、歯みがきが風邪を予防するというのはあまり知られていません。
そして、細菌を掃除する歯ブラシも使っていくうちに歯ブラシ自体にも細菌が繁殖します。
意外と忘れがちですが、口腔内を清潔に保つためにも歯ブラシの交換は1カ月に1本を目安にしましょう!
口腔内にたまったウイルス・細菌が歯ブラシに付着したまま何ヶ月も使うのはあまり良いことではありません。
日々の歯磨きが、むし歯や歯周病の予防だけではなく、風邪やインフルエンザの予防になるのでしっかりと磨いていきましょう。

とはいっても正しい歯磨きの方法が分からない…

頑張って磨いているつもりだけどきちんと磨けているか心配…

また、以前歯磨き指導を受けたことがあるという方でも口腔内の環境は時とともに変化していきますので、現在の口腔内の環境に合わせて歯磨きの仕方を変える必要があるかもしれません。

一見関係の無いように感じるお口のケアと風邪に、深い関係があることが分かったかと思います。

◆歯磨きと感染予防の関連性

①口腔内細菌の役割

口腔内には、数百種類の細菌が存在しています。これらの細菌は、健康な状態ではバランスを保っていますが、不適切な口腔ケアや不健康な生活習慣により、病原性の高い細菌が増殖することがあります。口腔内の病原性細菌が増えると、歯周病やむし歯だけでなく、全身の感染症リスクも高まることが知られています。

②バイオフィルムの形成

バイオフィルムとは、細菌が集まって形成する膜状の構造です。口腔内では、歯の表面や歯茎の周囲にバイオフィルムが形成されやすく、これが歯垢や歯石の元となります。バイオフィルムは、細菌の塊が外部からの攻撃に対して抵抗力を持つため、感染症の原因となりやすいのです。歯磨きは、このバイオフィルムを物理的に除去することで、細菌の繁殖を抑え、感染リスクを低減させます。

③歯磨きの具体的な効果

[口腔内の細菌除去]

適切な歯磨きにより、口腔内の細菌数を効果的に減少させることができます。特に、フッ素配合の歯磨き粉を使用することで、細菌の成長を抑制し、歯の再石灰化を促進する効果があります。歯ブラシによる機械的な清掃は、歯と歯茎の間に潜む細菌を取り除くのに有効です。

[免疫機能の向上]

口腔内の健康を維持することは、免疫機能の向上にもつながります。歯周病などの口腔内感染症が進行すると、体内の免疫システムが常に活性化され、全身の炎症反応を引き起こすことがあります。これにより、免疫力が低下し、他の感染症に対する抵抗力も弱まります。歯磨きによる口腔内の健康管理は、全身の免疫力を維持するために重要です。

④歯磨きの正しい方法

[歯ブラシの選び方]

効果的な歯磨きを行うためには、適切な歯ブラシを選ぶことが重要です。柔らかめのブラシは、歯茎を傷つけずに優しく磨くことができるため、特に歯周病予防に適しています。歯ブラシのヘッドは小さめのものを選ぶと、口腔内の隅々まで届きやすくなります。

[歯磨きの手順]

・歯ブラシの角度: 歯ブラシを歯と歯茎の境目に45度の角度で当てます。

・小刻みな動き: 小さな円を描くようにして、軽い力でブラシを動かします。

・全体をカバー: 前歯、奥歯、歯の内側、外側、噛み合わせの面、舌の表面まで丁寧に磨きます。

・時間をかける: 最低でも2分間、全体を均等に磨くことが推奨されます。

・歯磨き粉の使用

フッ素配合の歯磨き粉を使用することで、虫歯予防効果が高まります。また、抗菌作用のある成分が含まれた歯磨き粉を選ぶことで、口腔内の細菌数を減少させ、感染予防に効果的です。適量を守り、歯磨き後はしっかりとすすぐことが大切です。

⑤追加の口腔ケア

デンタルフロスと歯間ブラシ

歯磨きだけでは、歯と歯の間の細かい部分まで十分に清掃できないことがあります。デンタルフロスや歯間ブラシを使用することで、歯間のプラークや食べかすを取り除き、口腔内の清潔を保つことができます。特に歯周病予防において、デンタルフロスの使用は欠かせません。

⑥特殊な状況での口腔ケア

[高齢者の口腔ケア]

高齢者は、口腔内の健康管理が特に重要です。加齢に伴い、唾液の分泌が減少し、口腔内が乾燥しやすくなります。これにより、細菌の繁殖が促進されるため、定期的な口腔ケアが不可欠です。高齢者のための特別な歯ブラシや洗浄剤を使用することが推奨されます。

[免疫力が低下している人々]

免疫力が低下している人々、例えばがん患者や糖尿病患者は、特に口腔内の感染症に注意が必要です。免疫力が低下すると、口腔内の細菌が全身に広がりやすくなり、重篤な感染症を引き起こす可能性があります。これらの患者は、日常の口腔ケアを徹底し、定期的に歯科医のチェックを受けることが重要です。

⑦歯磨き習慣の定着

[子供の口腔ケア教育]

子供の頃から正しい口腔ケアの習慣を身につけることは、将来の健康にとって非常に重要です。親が手本を見せ、一緒に歯磨きをすることで、子供に正しい歯磨きの方法を教えることができます。また、歯磨きを楽しい時間にするために、好きなキャラクターの歯ブラシやフレーバーがついた歯磨き粉を使用するのも効果的です。

◆口腔ケアと全身の健康

①心疾患との関連

歯周病と心疾患には密接な関連があると言われています。口腔内の細菌が血流に乗って全身に広がり、動脈硬化や心筋炎などを引き起こす可能性があります。定期的な口腔ケアを行うことで、心疾患のリスクを低減させることができます。

②糖尿病との関連

糖尿病患者は、歯周病にかかりやすく、また歯周病が悪化すると糖尿病の管理が難しくなることがあります。口腔内の健康を維持することで、血糖値のコントロールが容易になり、全身の健康を保つことが可能です。

③歯科医との連携

定期的な歯科検診は、口腔内の問題を早期に発見し、適切な治療を行うために非常に重要です。歯科医院では、プロフェッショナルなクリーニングや歯石除去を行い、患者さんに最適な口腔ケアのアドバイスを提供します。

④早期治療のメリット

口腔内の問題を早期に治療することで、重篤な感染症や他の健康問題を予防することができます。例えば、軽度の歯周病は簡単な治療で改善できますが、放置すると重篤な状態になり、全身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。

◆歯磨きだけじゃない口腔ケア

口腔ケア=歯磨きだけではありません。口腔ケアとは、お口の中を清潔に保つことはもちろん、食べる、会話するなどの口腔機能や全身の健康を守ることです。そうすることによって生活の質の向上に繋げることを目的としています。

具体的には、

・歯磨きの時にデンタルフロスや歯間ブラシ、フッ素入りの歯磨きペーストなどを使い、効果的なセルフケアを行う

・歯科定期健診や、プロによるお口のクリーニング、生活習慣指導や歯磨き指導を受け、口腔ケアの質を高める

・バランスの取れた食事や適度な運動、十分な睡眠を心がけ、規則正しい生活で体の免疫力を高める

・よく噛むことで、唾液をしっかり出したり、消化を助け栄養の吸収を促進する

・お口の体操や唾液マッサージでお口の些細な衰え「オーラルフレイル」を予防する

など、これらは全て口腔ケアに含まれます。

口腔ケアは単なる歯の美しさを保つだけでなく、全身の健康にも密接に関わっています。感染症対策においても、口腔内の健康は欠かせません。

まずよく噛めておいしく食事ができるように、むし歯や歯周病などのお口のトラブルはしっかり治してお口の環境を整えておきましょう。入れ歯が合わない、口臭が気になるなども当院までお気軽にご相談ください。

◆まとめ

今回は、風邪の予防に口腔ケアは効果があるのかについてお話いたしました。毎日の歯磨きは、むし歯や歯周病を予防することはもちろん、風邪の予防にも繋がります。

一見、ウイルス対策と口腔ケアは何の関係もないように思えますが、実は今回お話ししたように、深く関係しています。

ウイルス対策はご自宅での丁寧な歯磨きと、定期的なプロによるクリーニングを受けることでさらにウイルス対策を強化できます。

口腔ケアは、単にむし歯や歯周病を防ぐだけでなく、全身の健康を守るために不可欠な要素です。特に、感染症の予防には歯磨きが重要な役割を果たします。適切な歯磨き方法やデンタルフロスの使用、定期的な歯科検診を通じて、口腔内の健康を維持し、全身の免疫力を高めることができます。歯磨きを習慣化し、日常生活に取り入れることで、健康な生活を送るための基盤を築くことができます。

当院では、特に歯周病治療やクリーニング(歯石取り)に力を入れています。クリーニングにより患者さんの口腔内の細菌数を減らすとともに、磨き残しが多い部分は患者さんに最適なブラッシング方法もお教えしておます。

患者さんお一人おひとりのお口の中の状態に合わせて最適な治療方法をご提案いたします。

是非、お気軽にご相談ください。

編集者 医療法人フォレスト 長野フォレスト歯科 理事長 藤森 林