こんにちは。長野フォレスト歯科の添野です。
一年の締めくくりの時期となり、皆さんお忙しく過ごされているかと思います。
今年ももう終わりですね。今年は皆さんにとって良い一年でしたでしょうか?
いきなりですが、紙タバコが歯や健康に悪いことは、皆さんよくご存知と思います。また喫煙習慣のある方は歯が黄ばんで見えますよね。
紙タバコには約5300種類の化学物質(そのうち約200種類が有害物質)と約70種類の発がん性物質が含まれています。
タバコの主な有害物質は「ニコチン」「タール」「一酸化炭素」です。
ニコチンは依存性が強く、毛細血管収縮作用という、細い血管の血流を悪くさせてしまう作用があります。
タールはヤニともよばれ、強い発がん性があり口の中の表面に沈着して、唾液の出る部分をふさぎ唾液の分泌量を減少させてしまいます。唾液の少ないお口の中は、プラークや歯石が付着しやすい環境になってしまいます。
一酸化炭素は酸素よりも血中のヘモグロビンと結合しやすいため、血液の色が黒くなるだけでなく、酸素が全身に行き渡りにくくなります。
では、有害物質が少ない加熱式タバコや電子タバコなら影響は無いと思いますか?
今回は、喫煙習慣によってどのように歯に着色するのか。加熱式タバコ、電子タバコなら問題無いのかについてお話したいと思います。
目次
◎喫煙で歯が黄ばむ原因はタール
タバコを吸うと歯が黄ばむのは、主に「タール」という物質が原因です。タールはタバコを燃やすときにできる黒くてネバネバしたもので、煙に含まれています(ヤニともいいます)。タバコの煙を吸い込むと、このタールが歯に付着していきます。
歯の表面にタールがくっつくと、歯の色が徐々に黄色く変わっていきます(この着色を促すのがニコチンです)。タバコを長年吸っていると、歯の表面が茶色くなることもありますね。タールが歯と歯茎の間にも溜まって、歯周病のリスクも高まります。
◎紙タバコと電子タバコや加熱式タバコの比較
紙タバコと比べて、電子タバコや加熱式タバコは、歯科領域である口の中に対してどのような影響があると思いますか?
紙タバコの煙の中には、既にお伝えした約70種類の発がん性物質を含む化学物質が含まれています。電子タバコにおいても、鉛・ニッケル・クロムなどの毒素は含まれていますが、従来のタバコと比べるとはるかに少ない量とされています。
しかしニコチンは紙タバコと比較して13〜87%と含まれており、ニコチンの歯周病の危険因子としてはタールよりも高く、加熱式タバコの使用者は紙タバコの場合よりも使用頻度が増えることも報告されていますので加熱式タバコの歯周病へのリスクは依然として存在すると考えられます。
電子タバコは医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律によってニコチンが規制されているため、日本ではニコチン入りの電子タバコは販売していません。
タールも含まれていないため健康に対しての影響に関してはまだ分かっていませんが、加熱式タバコと比べると普及率は低いです。
ただ、タバコを止めたい人の禁煙への一歩として、まず紙タバコの代わりとして加熱式タバコや電子たばこを使用し、ゆくゆくは完全な禁煙を目指すという考え方もあります。
ここまで紙タバコと比較した加熱式タバコや電子タバコの利点を述べてきました。しかし、残念ながら喫煙であることには変わりがありません。着色という点に関しては、従来のタバコと比べ、タールの量が少ないということもあり、ヤニがつきにくいという「ささやかな利点」がありますが、治療の際には、骨や歯ぐきの治癒が遅くなるというリスクが依然として伴います。特に、インプラントや歯周外科などの処置を行う必要性がある場合は、喫煙の有無が手術の成功率に直結します。
紙タバコはもちろんのこと、加熱式タバコや電子タバコを嗜む方についても、歯科治療を受ける際は十分相談の上、治療法を選択していただければと思います。
◎電子タバコと加熱式タバコの違い
一般的には良く「電子タバコ」という言葉が使われており、中には「加熱式タバコ」のことを「電子タバコ」と言っている方も見受けられますが、電子タバコと加熱式タバコは全くの別物で、明確な違いがあります。
加熱式タバコは、タバコ葉を使用しているためニコチンやタールが含まれますが、電子タバコはタバコ葉を使用しておらず、ニコチンやタールも含まれていないのが主な違いです。
電子タバコと加熱式タバコの違いについて、特にタールの含有に焦点を当てて、説明したいと思います。
電子タバコは、タバコ葉を使わずリキッドを加熱し、蒸気を吸うタイプのタバコです。
基本的に蒸気にタールが含まれていません。ですから、電子タバコは、タールによる歯の黄ばみリスクはゼロに近いとされています。
一方、加熱式タバコは、タバコ葉を燃やさずに加熱することで、ニコチンを含む煙を発生させるタイプのタバコです。
加熱式タバコでは、通常の燃焼式タバコよりもタールの発生が非常に少ないですが、完全にゼロではありません。そのため、加熱式タバコでも、ある程度の歯の黄ばみリスクがあります。
○加熱式タバコ
「加熱式タバコ」とは、タバコ葉を電力で加熱することで蒸気(エアロゾル)を発生させ、その蒸気を吸うための製品です。
従来の紙巻きタバコが、タバコ葉に直接火をつけることで煙を発生させ、その煙を吸引するものであるのに対し、加熱式タバコは煙が出ないために衣服などに臭いが付きにくく、また紙巻きタバコよりも有害成分が少ないと謳っていることから、紙巻きタバコから加熱式タバコに切り替える人も多くいるようです。
日本では2013年12月から販売が開始され、2016年ごろから急速に普及してきています。
代表的な製品としては、アイコス(iQOS)、グロー(glo)、プルーム・テック(Ploom TECH)などが挙げられます。
○電子タバコ
「電子タバコ」とは、リキッドと呼ばれる液体を電力で加熱し、その蒸気を吸うための製品です。
電子タバコは「VAPE(べイプ)」とも呼ばれる製品で、加熱式タバコとは異なりタバコ葉を使用しないため、ニコチンやタールが含まれておらず、タバコ独特の味や臭いがありません。
代わりにリキッドには様々な香りや味がありますので、気分によっていろいろな種類を楽しめるのが大きな特徴です。
リキッドの成分は主に、医薬品の基剤や食品添加物の成分として使われている「植物性グリセリン」と、医薬品や化粧品など幅広い用途で使われている「プロピレングリコール」が使用されおり、どちらも食品添加物としては安全性が高い物質とされています。
ニコチンを含まない電子タバコは、たばこ事業法の「たばこ製品」には当てはまらないため、法律上は未成年者への販売も可能ですが、業界団体が自主規制しているため20歳以上の人にしか販売されていません。
◎電子タバコも加熱式タバコも歯の黄ばみは低リスクですが、歯や健康にはとても影響があります
電子タバコは基本的にタール含有量はゼロ、加熱式タバコはかなり少ないです。
歯の黄ばみだけでいうと、かなり低リスクと言えます。
しかし、電子タバコ、加熱式タバコのどちらにも健康リスクはあります。商品によってはニコチンが含まれる場合があります。
ニコチンは依存性があり、血管に悪影響を与えます。血管が収縮すると、唾液の分泌が悪くなり、お口の中の自浄作用が弱まり、むし歯や歯周病リスクが高まります。
また、電子タバコと加熱式タバコに含まれる有害物質等の健康への影響や低温で加熱することでの害など販売開始からの年月が浅いため健康影響についての研究は限られており、長期使用に伴う健康影響はまだ明らかになっていないのが実情です。やはりタバコをやめて、お口の健康を守ることが最善の選択です。
ある研究結果では、20年という期間で喫煙者はタバコを吸わない人と比較して6.5倍歯周病になりやすかったという結果があります。他にも歯科のメインテナンス中のタバコと歯を失う関係を調べたものでは、喫煙者は3.24倍歯を失いやすかったという愛煙家には厳しいデータもあります。
タバコのニコチン成分が歯ぐきの毛細血管を収縮させます。狭くなり血行が悪くなることで、歯ぐきに酸素や栄養が行き届かなくなり、歯周病を悪化させてしまいます。
またタールの唾液量低下や一酸化炭素の酸素の供給が行き届きにくくなることも、歯周病のリスクになります。
喫煙による歯周病への影響の特徴として、出血などの自覚症状が出にくく、炎症症状が隠されてしまうため進行していることに気づかず歯周病が悪化していることがあります。
他にもたばこは「歯ぐきへの着色」「味覚が鈍くなる」「口腔内や咽頭のがんの発生率が高くなる」「口臭が悪化する」「口の中の乾燥する」等の影響があります。
また、妊娠中のたばこは胎児に影響があることも分かっています。
○タバコが歯に及ぼす影響
・歯の黄ばみ
・歯周病:タバコの物質が歯
周ポケットにたまり、歯茎
の腫れや出血を引き起こし
ます。進行すると歯が抜け
てしまうこともあります。
・口臭:タバコの物質が口の中に付着し、悪臭を出します。
・唾液の減少による、お口の免疫力の低下:ニコチンが唾液を減らすので、
口が乾燥。虫歯や歯周病のリスクが高くなります。
・虫歯
⇨歯の黄ばみや口臭はすぐに想像がつきますが、歯周病やむし歯にまで影響してしまうのです。
◎加熱式タバコの健康への害
加熱式タバコは、紙巻きタバコに比べて有害成分が少ないと言っても、タバコ葉を使用していることに変わりはありません。
そのため、ニコチンやタールなど有害物質を摂取することになりますので、紙巻きタバコ同様、血流が悪くなったり、免疫力を下げて歯周病やむし歯リスクを高めてしまうリスクがあります。
また、加熱式タバコは副流煙がほとんど発生しないとされていますが、タバコを吸って吐き出した呼気にはニコチンなどの有害物質が含まれており、受動喫煙のリスクがなくなったわけではありません。
特に妊婦さんやお子さまへの影響は出やすいため、煙が出ないからと言って家族と一緒の部屋の中でタバコを吸うのは控えた方が良いと思います。
◎電子タバコの健康への害
電子タバコは加熱式タバコと違い、タバコ葉を使用せず、ニコチンやタールも含まないため、口腔内への影響は少ないのではと考えられていました。
しかし、電子タバコ利用者の口内には、歯周病を進行させる細菌の割合が非喫煙者に比べて高かったことが明らかになっており、時間とともに歯周病を悪化させる可能性があるとの報告がされています。
また、電子タバコ利用者の口内は、紙巻タバコ喫煙者よりは健康的ですが非喫煙者よりは健康的でない可能性があるとされ、紙タバコほどではないにしろ、口腔内にも悪い影響があることがわかりました。
また、リキッドの主成分である「植物性グリセリン」と「プロピレングリコール」は安全性が高い物質とされていますが、あくまで食品添加物として使用する分には安全性が高いとされているのであって、加熱して肺に直接入ることの安全性まで保証されているわけではありません。
リスクをしっかり理解した上で使用する必要があります。
●喫煙ルームや別室で吸えば問題ないわけではありません
受動喫煙とは、たばこから出る副流煙などで、吸っていない人もその煙を吸い込んでしまうことです。この受動喫煙は肺だけでなくお口の中にも健康被害を及ぼすことがあります。
歯周病、子どものむし歯、歯ぐきの着色など、本人が吸っていなくても家族に喫煙者がいる場合はこのような影響が出る場合があります。
たばこを吸っていない人は副流煙によって1.3倍ほど歯ぐきが下がりやすいという結果もあります。
「近くでタバコを吸わなければ大丈夫」というわけでもありません。別の部屋で吸っている・オフィスの喫煙専用室などで分煙していても、吸ってからしばらくは、吐く息、髪や衣類から有害物質が出るため他の人に悪い影響を与えてしまう場合があります。
タバコは自分自身の体やお口の中に悪影響を与えるばかりか、家族や他の形にも巻き添えにしてしまうこともあるのです。
●電子タバコにしたら歯が痛くなってしまった…
「紙タバコをやめて電子タバコにしたら、歯茎が腫れてきた、歯が痛くなった。」
このような経験をした方もいらっしゃるかもしれません。
電子タバコに変えたと同時に歯茎が腫れたり、歯が痛くなったりしたら、電子タバコに何か悪い成分が含まれているんじゃないかと疑ってしまいますよね。
歯茎が腫れたり、歯が痛くなるというのは、典型的な歯周病の症状といえますが、この場合、電子タバコにより歯周病が悪化したというよりも、ニコチンによって抑えられていた歯周病の症状が表面化したものである可能性が高いです。
紙タバコに含まれるニコチンには血管収縮作用がありますが、この血管収縮作用は炎症を抑え、腫れや出血という症状を現れにくくする働きがあります。
つまり、歯周病になっていても症状が現れないため気が付きにくく、知らぬ間に進行してしまうのです。
紙タバコからニコチンの含まれていない電子タバコに変えることで、ニコチンの作用が切れてしまうため、今まで抑えられていた歯周病の症状が表面化されてしまいますが、これは今までも歯周病はあったにもかかわらず、ニコチンの作用で症状が表面化されていなかっただけで、歯茎の中で細菌の繁殖はどんどんと進んでいたのです。
これは、禁煙をしたときにも出る可能性のある症状ですが、禁煙して、歯茎が腫れたり歯が痛くなったからと言って、「やっぱりタバコを吸った方が良いのでは…」と自己判断するのはやめましょう。タバコが歯周病に有利に働くことはありません。
また、歯や歯茎の痛みの原因が別のものである可能性も捨てきれませんので、お口の中に違和感を感じたら、まずは歯科医院に相談してみるようにしましょう。
● 禁煙するために歯科のメンテナンスを利用することも一つの手段
以前喫煙していたが現在は禁煙している人は、一度もタバコを吸っていない人と比較しても歯を失うリスクに大きな差がなく、ずっと喫煙している人は歯の喪失リスクが2.6倍高かったというデータがあります。
つまり、タバコを止めれば歯を長持ちさせる可能性が高くなります。しかし長期の禁煙は簡単ではありません。タバコには2つの依存があり、ニコチンによる依存と、習慣的に吸ってしまう心理的依存があります。そのため、禁煙をしたくてもなかなか続かない場合があります。
そこで医科の禁煙外来とともに、歯科でのお口の中のメインテナンスも一緒に行うことをおすすめします。
それは、口臭や歯周病や歯の着色など、「タバコの影響」を直接自覚症状で確認できるのはお口の中だからです。継続して口腔内のメインテナンスを行うことで、自分自身の目で見える「口腔内の改善」を認知することで禁煙のきっかけになることがあります。
●まとめ
タバコによる歯の黄ばみの原因は、タールです。
電子タバコや加熱式タバコはタールの含有量が少ないので、歯の黄ばみは少ないと言えます。
しかしタール以外にもニコチンも含まれている場合もあるので、歯周病やむし歯リスクが高まります。
歯の黄ばみはタバコをやめることで徐々に改善されますが、完全に元の色に戻ることは難しいです。禁煙が望ましいですが、難しい場合は定期検診と歯のクリーニングを受けましょう。
当院では、患者さんそれぞれに合ったの治療法を提案し選んでいただいた上で、進めていく準備があります。
ぜひ一度ご相談ください!
また既に利用している方は、定期検診や歯のクリーニングなど、定期通院は必ずしましょう。お口の状況をきちんと把握し、健康を守りましょう。
「かかりつけ歯科医院」をつくっていただき、歯科治療だけでなく、メインテナンスも続けて受け、禁煙を一緒に取り組んでいくのが望ましいと考えます。