歯の豆知識

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痛さを最小限にするための工夫

こんにちは。長野フォレスト歯科の添野です。

11月下旬になり、きれいだった紅葉も見納めになってきましたね。

本格的な冬が近づき、朝晩の冷え込みが一層厳しくなってきました。体調には気をつけましょう!

今回は『麻酔』についてお話ししたいと思います。

歯科で初めて注射した時に、内科の注射とは違うなと思った方もいると思います。

歯科で行う麻酔にはいくつか種類がありますが、中でも患者さんの多くが経験しているのが局所麻酔(部分麻酔)の『浸潤麻酔』という麻酔注射です。

骨に浸みこませて効かせる浸潤麻酔

歯を削るとき、神経を取るとき、歯を抜くときなど様々な治療で用いられている局所麻酔(部分麻酔)です。麻酔を効かせたい場所の近くに麻酔薬を注入し、歯を支える骨へと浸み込ませ(浸潤させ)て神経に届かせます。大きな奥歯や、麻酔が効きにくい場合には、何本か注射することもあります。

浸潤麻酔と同じく局所麻酔(部分注射)の一種で歯根膜注射というものもあります。歯を包んで歯と骨をつないでいる靭帯『歯根膜』に麻酔薬を注入し、歯の周りに一気に効かせる方法です。

浸潤麻酔の場合、その痛みには大きく分けて3種類があります。

①針を歯ぐきに刺すときのチクッとする痛み。

②刺した針をさらに奥に進める痛み。

③麻酔液をグーッと注入する痛み。

①と②は、内科の注射でも感じる痛みかと思います。歯科で特徴的なのが、③の麻酔薬を注入するときの強く押されるような鈍い痛みです。これは、歯を支える骨にしっかりとくっついている歯茎の下に麻酔薬を注入するときに起きる『圧迫痛』です。 腕の皮膚のような伸縮性がない歯茎には、麻酔薬がスッと入るような隙間がありません。そのため麻酔薬が注入されると、圧迫痛が出やすいのです。

歯茎への麻酔薬の注入には強い圧が必要です。しかし、薬液の注入と針先の侵入はごくゆっくりと進めなければなりません。「早く効かせてあげたい」という思いで、急いで麻酔薬を注入すると圧迫痛が出やすいからです。また加える圧は一定に保たなければなりません。注入に緩急があっても圧迫痛の原因となるからです。

広範囲にしっかりと効く伝達麻酔

局所麻酔(部分麻酔)の一種ですが、浸潤麻酔や歯根膜注射よりも広く長く効きます。顎を通る太い神経の近くに麻酔薬を注入するので、たとえば下顎の神経1カ所に注入するだけで、下顎の片側の広い範囲の歯に効きます。親知らずの抜歯や骨が厚くて浸潤麻酔がなかなか効かない方の奥歯の治療などに用いられます。

歯科の麻酔について

歯の治療でよく使われるのは、表面麻酔と浸潤麻酔、伝達麻酔。
使う麻酔薬は同じでも、麻酔を打つ部位や方法によって効きやすさが異なります。
麻酔薬にもいくつか種類がありますが、麻酔の効果に大きな差はありません。
つまりどの麻酔薬を使っても、痛みを遮断するという根本の役割は変わりません。
しかし、実際に治療時に麻酔をしても少量の麻酔でしっかり効く場合と、追加追加で麻酔を打っても効きが悪い場合とがあるのは事実です。

一体、何に差があるのでしょうか?

麻酔の針を刺す部位

むし歯の治療を行う際に単に麻酔をするといっても、実は針を刺す部位を微妙に変えています。
歯茎に麻酔の針を刺すということには概ね変わりはありませんが、歯茎のどこに針を刺すのか。

どの部位の治療を行うか

麻酔が効きやすい、効きにくいの違いは治療をする部位によって差があります。
つまり、上の歯なのか下の歯なのか、前歯なのか奥歯なのかということです。
下の歯より上の歯のほうが麻酔が効きやすく、奥歯より前歯のほうが麻酔が効きやすいのです。

麻酔の効きやすい順番は、上の前歯⇨上の奥歯⇨下の前歯⇨下の奥歯です。

よく「下の親知らずを抜歯したときに麻酔が効きにくかった」という話を聞きますが、下の親知らずは下の一番奥の歯なので、歯の中で一番麻酔が効きにくい部位なのです。

骨の質

歯医者さんで主によく使う麻酔は浸潤麻酔といって、麻酔薬が歯ぐきや顎の骨に浸み込んで効果を発揮します。
骨は2層になっていて、表面は緻密で硬い皮質骨、中の方はすう疎な海綿骨でできています。
当然硬い皮質骨は麻酔薬が浸透しにくいため、この皮質骨が厚い場合、麻酔の効果が出にくいと言えます。
先程の上の歯より下の歯のほうが麻酔が効きにくいというのは、下顎の骨のほうが上顎の骨より皮質骨が厚く、骨の密度も下顎の骨のほうが高い傾向にあるというのがその理由なのです。
歯の神経は顎の骨の中を通り、歯の根っこの先から入り込んでいます。
そして歯は顎の骨の中に埋まっていますので、骨の外から麻酔を効かせようと思うと、骨が厚いほど、緻密であるほど麻酔が効きにくいのです。

 

症状(炎症)の度合い

麻酔を使うタイミングは症状が強くて麻酔をしないと治療ができない場合と、抜歯のように今は症状は強くないけど治療の際に強い痛みを伴う場合とがあります。
痛みがあるときは強い炎症を伴っている場合で、痛みがないときは炎症は弱い場合ですが、これらによっても麻酔の効きやすさに差が出てきます。
組織が炎症を起こしているとき、組織は酸性に傾いています。
麻酔薬はアルカリ性で、炎症を起こしている酸性の組織に麻酔薬を作用させても、それが中和されてしまい効果が薄れてしまうのです。
つまり、炎症が強いほど酸性に傾いていて、麻酔が効きにくくなってしまうのです。

「下の親知らずが痛くなったので抜歯して欲しい」という患者さまも多くいらっしゃいますが、下の奥歯で炎症が強い場合は最も麻酔が効きにくい状況なので、「今は炎症が強く麻酔が効かないため、お薬で炎症を抑えてから抜歯しましょう。」と言うことが多くあります。
その場合は抗生物質や鎮痛剤などを処方して炎症が収まってから抜歯を行います。
下の奥歯がむし歯でズキズキ痛いといった場合も同様で、麻酔が非常に効きにくいことがあります。

緊張・興奮状態

以前歯医者の麻酔で痛い経験があったり、麻酔や治療に対する不安が強かったりすると、痛みに対して敏感になります。
恐怖を意識すればするほど、それに対して敏感に(痛みを感じやすく)なってしまいます。

体調不良

体調の優れているときに治療を受けるようにしましょう。
睡眠不足や体調不良により麻酔が効かなかったり、いつもは感じないような違和感を感じたりすることがあります。
体調が悪い場合は無理せず予約を取り直しましょう。

飲酒・服薬

普段からアルコールを多く取っていたり、痛み止めなどのお薬をずっと飲んでいると麻酔が効きにくくなることがあります。
また歯医者の麻酔で気分が悪くなったことがある場合は、お薬手帳を持参して必ず歯科医師に伝えましょう。

体質的に麻酔が効きにくい方はいらっしゃいます。
そのような方でも、麻酔の量を増やすことで基本的に麻酔は効きます。
しかし、局所麻酔薬は使える量に限りがあるため、効くまで追加ができないこともあります。

 

疼痛閾値の低下

疼痛閾値とは痛みの感じやすさです。

疼痛閾値が低ければ痛みを感じやすく、逆に閾値が高ければ痛みを感じにくくなります。

疼痛閾値には個人差があり、決まった基準はありません。

また、この疼痛閾値は日々変化します。

これは脳内で痛みを感じるメカニズムが変化するため起こります。

治療を開始する前に麻酔を行ったが途中で痛みが出たため麻酔を追加。

その後また途中で痛みが出たため麻酔を追加。

しかしまた痛みが…

治療中の痛み→麻酔の追加→痛み→麻酔の追加→…

これを繰り返していくと麻酔が効きにくくなります。

これは繰り返す痛みにより痛みに過敏になり、疼痛閾値が下がることで起こります。

また、この疼痛閾値は恐怖や不安感、疲労などで下がると言われています。

上記でお話しした緊張や寝不足はこの疼痛閾値を下げていると考えられます。

 

「痛くて腫れているのに薬を出して終わりだった。」と不満に感じたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

しかし強い腫れ痛みの時は強い炎症状態にあり、麻酔が効きにくい状態です。

そのため「安心安全に治療を行えるようになる」ためにお薬をお渡ししています。

また、麻酔が苦手で不安や緊張をしている方は、緊張を和らげるために深呼吸をしてみてください。

麻酔が効きやすくなるかもしれません。

麻酔の効きやすい、効きにくいというのはいろいろな要因があります。
骨の厚みや質は人によって差がありますので、それを考えると麻酔が効きやすい人と効きにくい人がいるのがわかったと思います。
しかし、同じ人でも麻酔をする部位や炎症の度合いによって麻酔が効きやすい場合と効きにくい場合があるということもあります。
今後もし歯医者さんで麻酔が必要な治療を行う場合は、今回の内容を頭の片隅にでも入れて治療に臨んでいただけると心の準備もできるのではないでしょうか。

不安なことは是非ご相談していただければと思います。

編集者 医療法人フォレスト 長野フォレスト歯科 理事長 藤森 林