こんにちは。長野フォレスト歯科の添野です。
三寒四温を実感する気温差のある季節になってきましたが、体調を崩されていませんか?
今回は2023年12月から、保険診療に組み込まれた「PEEK冠」について説明したいと思います。
歯科治療の詰め物、被せ物は以前から「銀歯」が定番でした。
しかし、昨今では審美ニーズの高まりや金属価格の高騰、デジタル化の推進、新素材の開発など様々な要因が重なって「白い歯」が徐々に保険で使用されるようになってきました。
PEEK冠とはポリエーテルエーテルケトンを材料としてその頭文字を取っています。
ポリエーテルエーテルケトンとは簡単にいうと、プラスチックのことで耐熱性、耐摩耗性に優れています。
今まで保険診療で奥歯に白い被せ物を被せる場合はCAD/CAM冠でしたが、CAD/CAM冠もプラスチックで割れるリスクがあることや、また第2大臼歯と言って一番奥の歯は歯科用金属アレルギーの診断書がないと適応できないという制約があります。今までは、第二大臼歯・第三大臼歯は保険治療では銀歯だけでした。また、第一大臼歯の場合、上下左右の第二大臼歯の4本が存在し、しっかりと噛み合っている場合のみ保険のCAD/CAM冠は使えましたが、その適用範囲外は銀歯が基本でした。(金属アレルギーの患者様は例外あり)
PEEK冠は上記のような制約がなく使用することができます。
簡単に言えば、全ての奥歯を白っほい樹脂系の被せ物を被せられるようになったのです。(正しくは白ではなくアイボリーの被せ物)
今回、PEEK冠が新しく保険適用されたことで、親知らずを含めたすべての歯を保険の白い歯で治療できるようになりました。
しかしPEEK冠は12月に保険適応になったばかりですので、まだデータが少なく耐久性などわからない部分があります。
あと色調も通常は白い被せ物はシェードといい様々な色があり、そこから選ぶのですがPEEk冠は一色しかなく選ぶことができません。
ここではそんなPEEK冠の特徴や従来の保険の白い歯との違いなどを説明していきたいと思います。
目次
◆そもそもPEEK冠とは?
多くの人はまず「PEEK冠」という名前を初めて耳にするかと思います。正式名称は、「ポリエーテルエーテルケトン」(Polyether Ether Ketone)の略称で、PEEKという素材を使用して作られた冠(クラウン)のことを指します。高性能の工学用プラスチックです。この素材は耐熱性や化学的安定性が高く、機械的な強度も優れています。また、生体適合性があり、軽量かつ耐久性があります。その頭文字をとりPEEKと呼ばれているのです。簡単に説明するとプラスチックで作られた被せ物で、従来から保険適用されている「CAD/CAM冠」とは原材料が異なります。そのためいくつかの点で性質も異なります。
少しややこしいのですが、PEEK冠もCAD/CAM冠と同じように、「CAD/CAM」というシステムを使って製作します。
このPEEK材料はすでに工業・産業分野で金属の代用品と使用されており、医療機器やカテーテルや体内インプラントなどの生体材料もすでに使用されており実績のある材料です。
歯科の分野でも、自由診療の材料としてすでに一部で使用されていました。
奥歯(大臼歯部)はかなり強い噛み合わせの力が掛かるので、今までの保険のCAD/CAM冠材料では、冠の破折の可能性を考える必要がありましたが、新しく保険適用されたPEEK材は、強い噛み合わせの力が掛かっても材料自体がたわんで破折しにくいという特徴をもっています。
◇CAD/CAM冠はどんなもの?
CAD/CAM(キャドキャム)とはコンピューターでデザインしコンピューターで作成する被せ物です。
CAD/CAMでは保険の白い歯以外にもセラミックの被せ物も作ることができます。
保険で作るCAD/CAM冠の材料は、ハイブリットレジンという少量のセラミックスとプラスチックの特性を合わせ持つ新素材を使用します。
最初はセラミックのような美しさとそれなりの硬さがあり、プラスチックのような粘り強さがあります。
一番の利点が保険適用できることです。白い被せ物を、自由診療と比べて治療費用を抑えて利用できます。
金属を使っていないので、金属アレルギーが心配な方も安心して使用いただけます。
ただし、色々と条件があり、また奥歯全てに対応することは出来ませんでした(金属アレルギー以外)。
<メリット>
・白いので目立ちにくい(保険適用で白い歯にできる)
同じ健康保険適用の歯として銀歯が比較対象となりますが、銀歯と違って目立たないのが強みです。
・従来のレジンより強度がある
製作工程でレジンの塊から冠やインレーを削っていくため物性が均質でムラがないので、旧来のレジンと比較して強度が上がっています。(金属やセラミックには劣ります)
・金属ではないので金属アレルギーの心配がない
金属アレルギーの心配がないのも強みです。
金属アレルギーの方は全ての歯に適用することができるようになりました。
(医師による検査・診断が必要です)
従来の金属による修復の問題の多くが解消されているため、以前より選択しやすくなっています。
<デメリット>
主に見た目のメリットがある反面、プラスチックは金属と比べた場合に強度に弱点があるためデメリットも存在します。
・割れやすい
どうしても金属より強度が劣るため、噛み合わせの力が入った際に割れることがあります。
金属は摩耗して薄くなった際にも比較的強度が保たれるのに対し、CAD/CAM冠はプラスチックの類のため薄くなると割れてしまいます。
・徐々に黄色くなる
プラスチック食器をイメージしていただけると分かりやすいかと思いますが、CAD/CAM冠は徐々に変色してきます。
セラミックの場合は変色しないという強みがあります。
・歯垢のつきやすさ
その他の歯、特にセラミックに比べて歯垢がつきやすいです。
そのため歯周病の予防という側面から考えた場合、CAD/CAM冠の採用は不安要素と考える必要があります。
◇CAD/CAM冠の向いている人、向いていない人
前出のメリット・デメリットを考慮すると向き不向きが分かるかと思います。
<向いている人>
・健康保険の範囲でとりあえず歯を白くしたい方
・金属アレルギーがある方
<向いていない人>
・耐久性がある素材を希望する方
・予防効果を高めたい方
・歯ぎしりやくいしばり等の癖の強い方
◆PEEK冠のメリット・デメリット
従来のCAD/CAM冠と比較した場合、PEEK冠には次に挙げるようなメリットとデメリットが見られます。
<メリット>
・7・8番にも適応できる
PEEK冠の最大のメリットは、第一大臼歯である6番だけでなく、第二大臼歯(7番)と第三大臼歯(8番)にも使えるという点です。従来の保険のルールでは、特別な理由がない限り、7番と8番の被せ物は銀歯で作らなければなりませんでした。それがPEEK冠に保険が適用されたことで、すべての部位を白い歯で治療できるようになったのです。
・たわみやすくて破折しにくい
従来のCAD/CAM冠は、レジンとセラミックの混合材料で作られているため、強い圧力がかかると割れてしまうことありました。PEEK冠はプラスチック材料で作られていることから、たわみやすく割れにくいという性質があります。その結果、装置の寿命も長くなりやすいというメリットが得られます。
・歯を削る量が少ない
たわみやすくて破折しにくいということは、従来のCAD/CAM冠よりも薄く作れることを意味します。歯を削る量も少なく済むため、天然歯にやさしい歯科材料といえるでしょう。
<デメリット>
・審美性に劣る
PEEK冠の材料となるPEEKブロックは、アイボリー色をしています。現物を見るとわかりますが、従来のCAD/CAM冠よりも色がやや不自然です。奥歯はもともと目立ちにくい部位なので、それほど気にならないという方もいらっしゃるかと思いますが、審美面においては従来のCAD/CAM冠より劣ります。
・摩耗や変色が起こりやすい
従来のCAD/CAM冠もどちらかというとプラスチック材料に近いのですが、PEEK冠と比較した場合は、安定性にやや優れているといえます。そのため完全なプラスチックともいえるPEEK冠は、従来のCAD/CAM冠よりも経年的な摩耗や変色が起こりやすくなっています。
メリットでもある、たわんで割れにくいということがこの材料の欠点にもなり得るのです。
どういうことかと言うと、削った歯と被せ物はレジンセメントという材料で接着しています。このレジンセメントに応力がかかり、セメントが破壊されPEEK冠が脱離する可能性があります。
ということは、長期的にみると奥歯の噛み合わせの崩壊に繋がる場合もあります。
また、顎関節症の原因にもなり得る可能性もあります。(咬合高径の低下)
理由は、一番奥歯の部分で噛み合わせ部分の摩耗性が高いと噛み合わせが徐々に低くなり、顎関節にストレスが掛かり問題を起こす可能性が高くなります。
◇これでもう自由診療を選ぶ必要はない?
これまでは、7~8番を銀歯ではなく白い歯で治療する場合、自由診療を選択しなければなりませんでした。保険診療と自由診療とでは、実際に支払う医療費の額が大きく異なるため、泣く泣く銀歯を選んでいた方もいらっしゃると思います。そういう意味では奥歯の被せ物治療で自由診療を選択する機会は減少すると思います。
しかし、PEEK冠や従来のCAD/CAM冠は、歯科用プラスチックであるレジンをベースに作られた被せ物です。自由診療で作ることができるセラミッククラウンとは、さまざまな点で異なります。そこで保険診療の白い奥歯と自由診療のセラミッククラウンとの違いについても簡単に説明したいと思います。
◇保険の白い奥歯とセラミッククラウン(ジルコニア含む)の違い
保険の白い奥歯とセラミッククラウンには、次に挙げるような違いが見られます。
・審美性
保険の白い奥歯は、ブロック状の材料を削り出す形で作られるため、色調が均一です。とくにPEEK冠はアイボリー色をしているため、天然歯の色調や光沢、透明感を忠実に再現できるセラミッククラウンと比較すると審美性に劣ります。
・耐久性
上記でも説明したように、PEEK冠やCAD/CAM冠は主にプラスチックで構成されており、経年的な摩耗や変色が起こりやすいです。セラミックは安定性や耐久性に優れた材料なので、長い期間使用しても劣化しにくいといえます。経年的な劣化は、見た目を悪くするだけでなく、噛み合わせにも悪い変化をもたらします。
・適合性
プラスチック製の被せ物は、セラミック製の被せ物よりも歯質との適合が悪いです。細菌が侵入する隙間が生じやすいことから、むし歯の再発リスクはセラミッククラウンよりはるかに高くなっています。
このように、PEEK冠の保険適用によって、すべての部位を白い被せ物で安く治療できるようになりました。これは被せ物治療において、経済面を第一に考えている方にとっては極めて大きな改定となります。ただし、本文でもお伝えした通り、PEEK冠や従来のCAD/CAM冠はあくまでプラスチック素材であるため、自由診療のセラミッククラウンと比較すると、審美面・機能面・耐久面において劣るといわざるを得えないのが現実です。
奥歯の被せ物治療を検討する際には、その点も踏まえる必要があるといえます。
◇自由診療のセラミック(ジルコニア含む)の被せ物とどっちがいいの?
本音をお話しすると、従来の保険適応のCAD/CAM冠も、今回保険収載となった「PEEK」で作成した被せ物も、現段階では歯科医師が推奨するものではないかと思います。
理由としては、プラスチック特有のその物性にあります。CAD/CAM冠は、とても削れやすく2年も使用していると咬合面(噛む面)がすり減ってなくなってしまうことが多いです。噛み合わせができなくなると、身体のバランスに悪い影響を与える可能性が出てきます。
噛み合わせを考えるなら、セラミックや銀歯、金歯などに軍配が上がるでしょう。
また、従来の保険適応の白い歯(CAD/CAM冠)は、歯ブラシで傷がつき、そのザラザラの面にプラークや汚れが付着しむし歯のリスクを高めてしまう側面も持ち合わせています。
今回適応のPEEK素材は、たわみやすい特性があるため、しっかり噛んだ時に被せ物の中の接着剤が剥がれたり、たわんだ時の隙間から食べ物のカスや細菌が侵入する可能性が考えられます。
一方、セラミック(ジルコニア含む)は、頑丈で表面もツルツルしているため、噛み合わせの安定も良く汚れも付かないため非常に良い被せ物といえるでしょう。
むし歯が気になる方や歯や身体の健康を保ちたい方は、保険適応の白い被せ物ではなく自由診療のセラミックが良いかもしれません。
◇オールセラミックのメリット、デメリット
<メリット>
・ガラスでできているため透明感があり自然な色調を再現できる
・むし歯になりにくい
・金属アレルギーの心配がない
<デメリット>
・ブリッジなど適応できないケースがある
・割れる可能性がある
◇ジルコニアのメリット、デメリット
<メリット>
・割れにくい
・金属アレルギーの心配がない
・変色しない
・歯垢が付着しにくいのでむし歯や歯周病になりにくい
・強度があるのでブリッジやインプラント体にも使える
<デメリット>
・割れることがある
・研磨と調整が難しい
・オールセラミックに比べて外れやすい
◇保険治療の銀歯はどのようなもの?
保険の被せ物に「銀歯」があります。
この銀歯の金属は12%金銀パラジウム合金と呼ぶ混ざりものです。その組成割合は国で定められています。
12%金・20%パラジウム・50%銀・16%銅です。
これが安全かどうか…。
昔、保険の詰め物で(今でも患者様のお口の中に見られます。)「アマルガム」という詰め物がありました。
今でも患者様のお口の中に入っているのを拝見します。
この組成は銀35%、スズ9%、銅6%、少量の亜鉛、残りの約40%が水銀です。
水銀は人体に有害な物質で身体に悪影響を及ぼす可能性があることはほとんどの方が知っているかと思います。
このようなことから、その時代で保険で扱う材料が100%安全とは限りません。
◇銀歯のメリット、デメリット
<メリット>
・欠けたり割れたりすることがない
・噛む機能はセラミックと同等
<デメリット>
・金属色が目立つ
・金属アレルギーの心配がある
・金属が溶けだし歯茎に黒くしみ込んだメタルタトゥーになる
・銀の含有量が多いので腐食しやすくその部分からむし歯になりやすく外れることがある
・金属イオンの影響で歯垢が付きやすいので歯周病、むし歯のリスクが高まる
・発がん性がある
特にパラジウムは、金属の中でもアレルギー感作率が最も高く唾液に溶けてイオン化した金属が血液に入り込みます。
そして金属アレルギーの発症のリスクが高まります。金属アレルギーの症状はアトピー性皮膚炎、掌蹠膿疱症、頭痛、めまい、喘息など多くの症例の報告があります。
また発がん性の疑いもあり口腔がんや舌癌がパラジウム合金と接触する部位に発症していることが多く観察されるためドイツではパラジウムの使用を禁止しています。
スウェーデンでは妊婦と小児には完全使用禁止です。
海外で禁止されている金属を日本では未だに使用されているのです。
歯科の治療には、健康保険証を使ってできる保険治療と健康保険証が使えない自費治療があります。
保険治療は国が定めた材料や料金などルールに従って行うので費用が安く済む反面、十分な時間がかけられない、品質や精度の良いものが作れないなどデメリットが多くあります。
自費治療は自由に身体に安全な高品質な材料を用いて丁寧に精度の良いものを作ることができます。従って患者様にとって長持ちする口内環境を作ることができます。
費用を掛けたくない方は保険治療がお勧めです。
歯科医療で最低価格でできる治療は保険治療です。しかし保険治療が国で決めているからといって安全で長持ちするものとは限りません。ご自分の健康な歯を害することもあります。
「アマルガム」という詰め物が昭和30年頃の保険治療にたくさん使用されてきました。このアマルガムの中には「水銀」が含まれており現在では体に良くないことはほとんどの方が知っています。
その時代に保険治療に取り入れられた材料が安全安心なものとは限らないのです。
そして保険治療した歯の寿命は長くありません。
平均して4〜5年で再治療になる可能性が高いです。(※全ての方が再治療になるわけではありません。)
実は保険治療を短いサイクルでやり直す治療には限界があります。
最終的に抜歯に至る時期が早くやってきます。
そもそも歯の治療は「元に戻す治療」ではなく「人工物で補う治療」です。
例えば風邪で熱が出たり鼻水、咳が出るといった症状が治ると身体は風邪をひく前の元の状態に戻りますが歯の治療は虫歯になってしまったら元の歯の状態には戻せません。
詰め物など何かしらの人工物で補う治療です。お口の中は熱い物や冷たい物、酸っぱい物など色々な温度変化や食物の性質の異なるものが入ってきます。また歯周病菌などの細菌もいます。このような過酷な状況の中で耐えられる天然歯と性質や物性などが全く同じ人工物は残念ながらありません。
保険治療を繰り返しても良いという方は、歯の寿命が短くなることを理解した上で選択してください。
どんな選択肢にしても、定期的に歯科医院でのクリーニングを行い、またご自宅でも歯ブラシの他に歯と歯の間の清掃道具をお使いいただくことによりさらにむし歯、歯周病の予防効果が高まります。
個人個人でも、治療する場所によって変わってきますので被せ物について気になる方は是非長野フォレスト歯科にてご相談ください。
編集者 医療法人フォレスト 長野フォレスト歯科 理事長 藤森 林